地域ブランディングのすすめ:地域の“らしさ”を価値に変えるには
- Branding Design Association
- 3 時間前
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「地方創生」という言葉が聞かれるようになり久しいですが、お住まいの地域は今、本質的な活力を感じられているでしょうか?
また地域の未来を担う皆様は、今、「良品・技術があるのに市場で埋もれる」というブランド課題に加え、「若手の視点が活かされない」「挑戦よりも前例踏襲が優先されがち」という組織文化と人材育成の課題に直面しているのではないでしょうか。
観光パンフレットやロゴマークといった“見た目”を整えても、組織内部の意識が変わらなければ、地域に本質的な力は生まれません。重要なのは、「前例踏襲」の壁を破り、地域固有の「らしさ」を、関わる全ての人々が「自分ごと」として育てていくプロセスです。
本記事では、こうした地域が抱える根本的な課題に対し、従来のブランディングを「施策として完結させる」という一時的な手法ではなく、ブランディングを「地域に根付かせる」という持続可能な視点をご提案します。
あなたの地域の「らしさ」を確かな価値に変え、未来を担う人材と共に歩み始めるために長野県麻績村の成功事例と、その実現に不可欠なデザイン思考の導入、体系的な学びの重要性について、徹底的に解説します。
停滞を打ち破り、地域全体で活力ある未来を築くための一歩を、今ここから踏み出しましょう。
目次
地域ブランディングとは?「つくる」から「育てる」へ

単なるPRやロゴ制作ではない、地域の価値を“育てる”視点
地域ブランディングとは、地域が持つ固有の価値、すなわち「らしさ」を、地域に住む人々や地域外の顧客にとって明確な価値へと変容させ、持続的に発展させるための戦略的な活動です。
多くの場合、ブランディングは外部コンサルタントによる「アウトプット」の制作や「施策の導入」で完結しがちです。しかし、ブランディングの本質は、地域が「誰のために、何のために、その地域が存在するのか(MVV:Mission/Vision/Value)」を明確にし、その価値観に基づいて、自治体職員、事業者、住民一人ひとりの行動や意識を変革していく「プロセス」にあります。
「育てる」ブランディングとは、このプロセスに焦点を当て、地域の人々が、自分たちの地域の価値を日々の業務や対話の中でその価値観を継続的に実践していく視点です。
地域の“らしさ”(MVV)を言語化し、共に育むプロセス
ブランディングにおける「らしさ」とは、その地域に流れる歴史、風土、人々の気質、そして「当たり前すぎて誰も気づいていない」日常の中に潜む、「体験価値」のことです。
この「らしさ」を明確にするプロセスこそが、価値の再構築の第一歩となります。
Mission(目的): 私たちは何のために存在するのか。
Vision(未来像): 10年後、どんな地域になっていたいのか。
Value(提供価値): 私たちは地域外の誰に、どんな独自の価値を提供するのか。
これらのMVVを明確にするには、デザイン思考を応用した対話の場を通じて、地域の人々が「共に探り、共に言語化する」ことが不可欠です。この共創のプロセスこそが、ブランディングを一時的な施策で終わらせず、地域に根付かせる活動へと変えるのです。
なぜ今、地域に「育てるブランディング」が必要なのか

人口減少や地域間競争、そして組織の停滞といった背景を踏まえ、デザイン思考を共通言語とした「育てるブランディング」の必要性とその構造を解説します。
人口減少・地域間競争と「良品が埋もれる」課題
少子高齢化と首都圏への人口集中が進む現代において、地方は常に厳しい地域間競争に晒されています。
良品が埋もれる現状: 地方の高品質な特産品や独自の技術も、都市部の洗練されたマーケティングやブランド力に埋もれてしまいがちです。
「地元らしさ」の抽象化: 地元の人々にとっての「当たり前」が言語化・可視化されず、結果として市場競争力を持ち得ません。
「良いモノなのに選ばれない」状況から脱却するためには、競合には真似できない、その地域固有のMVVを核とした「育てる」ブランド設計が不可欠なのです。
地域の未来像と施策をつなぐ“共通言語”としてのデザイン思考
地域や組織の停滞の大きな原因は、「挑戦よりも前例踏襲が優先される」風土です。この課題を解決し、地域の未来像(Vision)と日々の施策を接続するために有効なのが、デザイン思考です。
デザイン思考とは、共感を起点に、課題を深く理解し、多様な視点を取り入れながら、対話と試行錯誤を通じて革新的な解決策を生み出すための「思考プロセス」です。
この思考法を組織に導入することで、以下の変革が起こります。
内向き思考からの脱却: デザイン思考の「共感」フェーズは、観光客や移住者など地域外の視点を取り入れることを促します。
前例踏襲の打破: 仮説と検証を繰り返すプロセスは、「前例踏襲」を求める組織文化に対し、「小さな挑戦と失敗を許容する」文化を生み出します。
共通言語の創出: 役職や世代を超えて、「共感マップ」「プロトタイプ」といった共通のツールと言語で対話できるようになり、理念が浸透しやすくなります。
自治体職員・事業者・住民が共に育てるブランドとは
ブランディングを「育てる」主体は、自治体や商工団体だけではありません。
地域ブランディングが成功するためには、自治体職員・事業者・住民など、全てのステークホルダーがブランドの「担い手」となることが必要です。
ブランド価値を共有し、日々の行動にブランドの精神が宿ることで、「内側からのエンゲージメント」が高まります。このエンゲージメントこそが、持続的なブランドの活力となります。ブランドは「つくられる」ものではなく、地域全体で「根付かせ、育てる」ものなのです。
「育てるブランディング」に取り組む4つのメリット

ブランド価値の再構築から、組織文化の変革、人材育成まで、具体的に地域が得られる4つのメリットを整理します。
ブランド価値の再構築:「良いモノなのに選ばれない」を脱却し、明確な独自性を打ち出す
独自のMVVの明確化: 地域の持つ無形の魅力や、当たり前の「体験価値」をデザイン思考を通じて言語化することで、競合には真似できない「らしさ」が明確になります。
市場競争力の獲得: この独自性を核にすることで、「良いモノを作っているのに選ばれない」状況から脱却し、地域外の顧客に対して明確な訴求力を持つことができます。
社員教育の刷新:「地域の担い手」を育てる内製化の土壌づくり
理念の浸透と主体性の向上: デザイン思考を用いたワークショップは、社員や職員に「なぜ私たちはこの活動をしているのか」という目的意識(Mission)を腹落ちさせます。これにより、自ら考えて行動する「地域の担い手」としての意識が育ちます。
外部依存からの脱却: ブランディングの知識とスキルが内製化されることで、外部の支援を最大限に活かしつつも、施策が外部支援終了後に停滞することなく、自立して継続できる組織体制が構築されます。
組織文化の変革:挑戦と対話を促し、前例踏襲の壁を破る
心理的安全性の確保: デザイン思考のプロセスは、役職や年齢に関係なく誰もがアイデアを出し合える対話の場を創出します。「挑戦よりも前例踏襲が優先されがち」だった組織に、失敗を恐れずに挑戦し、共感し合える新しい風土が生まれます。
「共感」の技術の導入: 顧客や住民のニーズを深く理解するための「共感」の技術が組織に導入されることで、「対話や共感よりも効率重視になりがち」だった組織が、人間中心の意思決定を行えるようになります。
顧客ニーズとの接続:地域外の視点を反映し、市場競争力を高める
ペルソナ設定による明確化: 具体的な顧客像(ペルソナ)を設定することで、地域内の人の意見だけでは見えなかった地域外のニーズや潜在的な不満を捉えられるようになります。
施策の精度向上: ターゲットの視点が明確になることで、観光施策、移住支援、特産品開発といった全ての施策の精度が向上し、結果として市場競争力が強化されます。
地域ブランディングに取り組むうえでの3つの壁

「育てるブランディング」に取り組む4つのメリットで掲げた「内製化」「組織文化の変革」といった目標は、多くの地域が抱える構造的な課題によって阻まれてしまいます。
本章では、メリットを最大化するために乗り越えるべき、理念と現場の断絶や外部依存体質といった、3つの根本的な課題を詳しく解説します。
壁1:理念と現場の断絶:「ビジョンは立派だが、現場で浸透しない」
自治体や企業経営者が掲げた「未来のビジョン」は、現場の職員や社員には単なるスローガンとしてしか響かないことが多々あります。これは、ビジョンがトップダウンで「押し付けられ」たものであり、現場の課題や想いに「接続されていない」ためです。
理念は、現場が「自分ごととして共有し、対話する」プロセスがなければ、組織の行動原理にはなり得ません。
壁2:外部コンサル依存と内製化の失敗:「補助金頼みで終わる」体質
外部の専門家を入れても、「コンサルタントがいなくなったら元に戻った」「補助金が切れて継続できなかった」という経験を持つ地域は少なくありません。これは、外部の専門家が「魚(成果物)」を与えただけで、地域の人々が「魚の釣り方(スキル・思考法)」を学ぶ機会がなかったためです。
地域が自立して継続するためには、組織全体で体系的な知識とスキルを内製化することが必須です。
壁3:共感・対話の不足:「効率重視になりがち」な組織文化
「挑戦よりも前例踏襲が優先されがち」「対話よりも効率重視」という組織文化は、新しい価値を生み出す最大の障害です。地域ブランディングは、住民や事業者、自治体といった多様な立場の人々の「共感」をベースに対話を重ね、小さな失敗を許容しながら進む必要があります。この「非効率」に見える対話のプロセスを軽視し、すぐに「効率」や「正解」を求めすぎると、活動は頓挫します。
地域ブランディングを“育てる”ための3ステップ

課題を乗り越え、ブランディングを地域に根付かせるための具体的な実践ステップをご紹介します。弊協会が提唱するデザイン思考を応用したこの3ステップは、地域の価値を明確化し、内製化を進めるための明確な手順となります。
ステップ1:価値を見つける(共感とMVVの言語化)
地域の「らしさ」を見つけるためには、まず徹底的な「共感」が必要です。
共感(課題の深掘り): 地域外の顧客(移住者、観光客)に対してインタビューやフィールドワークを実施し、顧客がその地域で「何を経験し、何を価値と感じているか」を深く理解します。
MVVの言語化: これらのデータをもとに、地域に潜む価値を掘り起こし、地域全体で共有できる「Mission(目的)、Vision(未来像)、Value(提供価値)」を言語化します。
ステップ2:共に考える(ワークショップ・対話の場)
価値が言語化されたら、次はその実現方法を対話によって練り上げます。
アイデア創出: 言語化されたMVVをもとに、住民、事業者、自治体職員が立場を超えて集まり、「どうすればMVVを実現できるか」を考えるアイデアソン形式のワークショップを実施します。
プロトタイピング(試作): 思いついたアイデアを、パンフレットのラフ案、イベントの簡単な企画書など、最小限の形で「試作(プロトタイプ)」し、すぐに外部の意見を聞きます。このプロセスが、前例踏襲の文化を変える訓練になります。
ステップ3:実践しながら育てる(イベント・事業・教育)
試作したアイデアを、小さな実践を通じて育てます。
継続的な実践: プロトタイプから生まれたアイデアを、小さなイベントや、既存事業の一部変更として実践します。この実践を通じて得られたフィードバック(成功・失敗)を、再びステップ1の「共感」に戻して改善します。
内製化(教育): このプロセスを継続的に回すために、自治体職員や商工団体職員が自らデザイン思考やブランディングの知識を身につけ、地域の内側から活動を推進できる「担い手」を育成します。
成功事例に学ぶ。内側からブランドを育む麻績村のプロセス

理論を実践に落とし込む際のヒントとして、弊協会が伴走支援した麻績村商工会の事例を詳細に解説します。課題の発見から、デザイン思考を用いた対話のプロセス、そして継続的な成果へと繋がったプロセスをご紹介します。
課題:「良品が埋もれる」状況からの脱却
長野県麻績村では、過疎化が進む中で、村の活力の低下や、地域全体として外部に伝わる明確な「らしさ」の欠如が課題でした。麻績村商工会は、地域の事業者の活動支援を行う中で、地域の良品や技術が明確なブランドとして外部に伝わらない状況に直面していました。
プロセス:デザイン思考を活用した価値発見ワークショップ
麻績村商工会では、2019年から始まった「創業塾」の流れを受け継ぎ、2020年に弊協会が合流し、デザインの専門家派遣による支援を開始しました。また、2022年には創業塾のフォローアップとして「麻績村の価値を考えるワークショップ」(全4回)を実施しました 。
体系的な学び: ワークショップでは、ブランディングの基礎知識やデザイン思考の導入、そして具体的な手法としてビジュアルストーリーテリングや体験価値シートを用いたワークが行われました 。これにより、参加者個々の「まちに関するエピソード」を分解し、「理想のまち」に対する多様な価値観を発見する機会となりました 。
新たな視点の獲得: バックキャスティングの手法を用い、「30年後の理想の麻績村を想像するワーク」を通して、村の価値に関して新たな視点を発見しました 。この活動を通して、麻績村の住民がブランディングについて考えるきっかけが設けられました 。
この活動は、デザイナー以外の方への「デザインの考え方」の啓発を通したブランディング推進活動となりました 。
成果:意識の変化が「行動」につながったイベント「麻績メッセ」の開催
4回にわたるワークショップを通じてデザイン思考とブランディングを学んだ住民からは、「ブランディングをして盛り上げていこうという活力を感じた」という意見や、「デザインに関する考え方が変わった」という声が上がりました。
この高まった意識と活力を具体的な形にしたのが、地域活性化イベント「麻績メッセ」の開催です。
麻績メッセは、麻績村商工会が主催し、麻績村役場が後援、弊協会が協賛する体制のもと、2023年8月に実現しました。初回にもかかわらず計27ブースが出展し、村外からの参加も半数近くを占める大きな盛り上がりを見せました。
特筆すべきは、この取り組みが単発に終わらず、2024年8月には2回目の「麻績メッセ2024」が開催された点です。麻績村と隣接する筑北村から24の事業所や団体等が出展し、販路拡大に加え、人材確保も目的としたメッセ部門が設けられるなど、活動の幅と目的がさらに進化しました。
こうした継続的な活動の発展こそ、体系的なデザイン思考の学びが、地域住民の内側からの意識と行動を変革し、地域全体で「魅力」を発信し続ける力につながった確かな証拠と言えるでしょう。
麻績村事例に見る「育てる」ブランディングの3つの共通点
トップダウンではない「対話」を起点とする: 成功の鍵は、外部専門家が結論を出すのではなく、ワークショップを通じて多様な参加者が「共感」し合い、自ら地域のMVVを言語化するプロセスに時間をかけた点です。
デザイン思考による「共感力」を導入する: 体験価値の深掘りといったデザイン思考の具体的な手法を導入することで、組織の思考を内向きから外向きに変えることに成功しました。
内製化を意識した「体系的な学び」を提供する: ブランディングの基礎知識やデザイン思考を体系的に学ぶ機会を提供し、住民自身が継続的に活動を推進できる担い手へと成長しました 。
あなたの地域の一歩を支える選択肢:弊協会の支援プログラム

地域が抱える課題の段階に応じ、体系的な学びから内製化支援までを網羅する弊協会の具体的な支援プログラムをご紹介します。
まずは考える場から:デザイン思考・デザイン経営をベースにしたワークショップ
「何から始めればいいか分からない」「組織の壁を破る対話の場が欲しい」という方に最適です。
目的: MVVを見つけるための「共感」と「対話」の場を創出します。
内容: 麻績村の事例でも活用されたデザイン思考の手法(共感マップ、プロトタイピングなど)をベースに、自治体職員・事業者・住民などが立場を超えて参加するワークショップを実施します。
効果: 「デザイン経営」を実践的な手法として理解し、組織内の風通しを良くし、小さな一歩を踏み出す勇気を参加者に与えます。
理論を体系的に学ぶ:デザイン思考検定
「組織全体で知識を共有したい」「外部支援を受ける際の判断基準を持ちたい」という方に最適です。
目的: ブランディングとデザイン思考に関する知識を体系的に習得し、組織内で共通言語化します。
内容: 弊協会が提供する検定を通じて、ブランディングの基礎理論やデザイン思考のフレームワークを網羅的に学ぶことができます。
効果: 属人的だったブランディングの知識が組織全体で共有され、外部専門家やデザイナーの提案に対して明確な判断基準を持つことができるようになります。
支援力を高める:ブランディングデザインコーディネーター資格取得講座
「地域の中でブランディングを推進できる専門家を育てたい」という自治体職員や商工会職員の方に最適です。
目的: ブランディングデザインの専門知識とデザイン思考に基づいたブランド構築スキルを身につけ、企業を支援できるブランディング推進者を育成します。
内容: 資格取得講座では、デザイン経営のフレームワークを理解した上で、ブランドステートメントの制作やムードボードの作成を通じて、ブランドの「らしさ」を言語化し、ビジュアル化する実践的なスキルを習得します。これにより、企業や住民との対話の土台を作り、ブランド戦略の策定に必要な基本プロセスを学ぶことができます。
効果: 外部の支援に依存せず、ブランド構築の土台を整理・指導できる力が身につきます。自治体職員や商工団体職員の皆様が、企業や住民に対し継続的なブランディング支援を行えるようになり、地域の未来を自立的に育てる土壌を構築します。
地域の価値を共に育てていくために
地域ブランディングは「魔法」ではありません。地域に深く根ざした価値「らしさ」を、デザイン思考という体系的な手法で掘り起こし、関わる全ての人々の意識と行動を地道に「育てていく」営みです。
麻績村の事例が示すように、小さな一歩からでも、体系的な学びと対話のプロセスを導入することで、地域が持つ「らしさ」を明確な価値へと変えることができます。
麻績メッセでは、地域の魅力発信に加え「人材確保」という新たな目的を掲げて継続開催していることは「育てるブランディング」の取り組みが地域に深く根付いていることを証明しています。
地域が持つ無限の可能性を引き出し、共に育てていくために。私たち一般社団法人ブランディングデザイン協会が知識と経験をもって、最初の一歩から伴走させていただきます。
当協会では「対話の場」であるワークショップ、体系的な知識習得のための「検定」、そして専門家育成の「資格講座」という、地域の課題ステージに合わせた複数の支援プログラムをご用意しています。 地域の「らしさ」を言語化し、組織・地域全体で未来を育む推進力を身につけたい方は、ぜひ公式サイトをご覧ください。




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