bdaとともにセミナーやSDGs活動をおこなっている株式会社オカムラホーム大地諭さんにお話を伺いました。大地さんはbdaの「ブランディングデザインコーディネーター初級講座」を受講して、ブランディングデザインコーディネーターとしての勉強をしてくださっています。
前編では大地さんが感じていたデザインに対する課題と講座を受講したことにより生まれた変化について語っていただきました。
インタビュイー 大地 諭様
【経歴】
大学で建築を学び、卒業後はマンションディベロッパーに就職する。ディベロッパーでは現場監督として施工管理をおこなっていたが転職。転職後はアパート建築の現場監督・分譲住宅建築・注文住宅建築・企画・営業・原価管理など住宅に関するあらゆる業務を経験する。不動産・建築の総合企業である「株式会社オカムラホーム(本社:千葉県八千代市)」に転職していた先輩に誘われ、35歳の時に入社。現場監督から商品企画・営業・造成管理を経て、現在は建築部門の責任者およびグループ会社「株式会社オカムライズ」の責任者を担っている。
株式会社オカムラホームWebサイト https://www.okamura-home.co.jp/
株式会社オカムライズWebサイト https://www.okamura-is.co.jp/
「良いものを作りたい、という想いから建築の道へ」
━━本日はよろしくお願いいたします。大地さんは大学で建築を学ばれていたとのことですが、建築を学ぼうと思ったきっかけ、興味を持ったきっかけを教えてください。
多くの方が将来について悩むことがあると思うのですが、私も大学受験の際に将来や卒業後の進路について色々と考えました。得意なことや子供の頃からの想いを振り返ってみると、数学・物理を中心とした理系教科が得意だったこと、ものを作ることがとても好きだったことを思い出しました。夏休みの宿題で出された工作やラジコンカーを率先して作るなど、ものづくりがすごく好きな子供だったんです。そのようなきっかけから理系の中でもものづくりに携わることができる建築や施工管理に興味を持ち始めました。
━━今までマンション・アパートの現場監督や企画など様々な経歴を積まれていますが、大地さんがお仕事をする上で大切にしていることや、楽しいと感じる瞬間はございますか。
やはり、良いものを作ること、そしてものづくりを楽しむことを仕事の上で大切にし続けてきています。
大学卒業後、最初に入社した会社ではマンションの施工管理の仕事をしました。夢を持って社会人になりましたが、入社当時は「24時間働けますか」という風潮もあり業種としても非常に過酷だったのが今でも忘れられません。マンションを建築するにも短い工期で仕上げる必要があり突貫工事でした。会社の利益のための施工管理という側面があったんです。
「ものを作りたい」という想いを持ち、それを大切にして楽しみながらも、利益のための施工管理だけを続けていると「何のためにものを作っているのだろう」という気持ちが芽生えてきました。そのような経験から「良いものを作りお客様に喜んで住んでいただく」そんな住宅を作りたいと夢見るようになったのです。この想いは、今でも私が働くための一番の力の源となっています。
その後は転職を重ねて現在のオカムラホームに入社しましたが、オカムラホームで長く働けている一つの理由が「良いものを作りお客様に喜んで住んでいただきたい」という想いを社員ひとりひとりが共有しているからだと思います。
━━大地さんは0から1を作っていく仕事、ものづくり的な仕事が楽しいと感じられているんですね。
振り返ってみると、元々「0から1を作ることが得意」というわけではなかったと思います。社会人になってからはチャレンジの連続で、気が付いたらいろんな会社で0から1を作るという部署に配属されていました。その仕事に奔走するうちに、「あるものをやる」ではなくて「ないものを作って進んで、走りながら考える」ことのほうが得意になっていったと思っています。
━━良いものを誰かのために0から作っていくことに喜びを感じていらっしゃるということですね。
「オカムラホームとの出会いと、見えてきた課題」
━━オカムラホームとの出会い、入社の経緯についてお伺いしたいです。当時外から見たとき「オカムラホームはすごいな、いいな」と思ったところを教えてください。
オカムラホームを知ったのは、前職の先輩が先にオカムラホームに入社していて、連絡を取り合ううちに会社について教えてもらったのがきっかけです。オカムラホームに入社する前は「千葉の八千代市にある地場の工務店がどんな建物を建てているのか」ということに興味がありました。実際に建物を見て、専属の大工さんが非常に丁寧に良いものを作っていることに感銘を受けましたのを覚えています。精度もいいですし、使っている建材も優良で、地元できちんと商売をしているということが印象的でした。
━━実際に入社してみて、驚いたことや感動したことはありますか?
入社当時は20~30人くらいの規模だったので、会長や社長とスタッフの距離が近くてびっくりしました。週三日の朝礼では会長と社長の席まで各スタッフが椅子を持って行き、ホームルームのようにみんなで話をしていました。前職が7,000人くらいの規模の会社だったのでアットホームな雰囲気には驚きました。
加えて、これは八千代市の地域性かもしれませんが、地主様や農家の方とお話する機会がたくさんあったのも初めての経験でした。八千代市の人々の温かさに触れて自分の心が洗われるのを感じたんです。時間の流れもゆったりしていて、良い環境で仕事ができると感じました。
前職では満員電車に揺られて都内に行き、コンクリートジャングルで働いていましたが、オカムラホームに入社してからは都内とは反対方向に通勤して、地域の方々とお話をしながら本当にいいものを作ることに集中できることに感動しました。
他にも、「千葉での営業に成功している」こと自体が驚きでした。前職では一都三県を対象に営業をしていたのですが、東京・神奈川は人が多く土地が少ないですからお客様の反応もすこぶる良くて、建築前でも売れていました。一方で埼玉・千葉となると地域性が出てくるので事情がちがいます。もちろん千葉の中でも利便性の良い総武線沿線などはある程度早く売れるのですが、都心から離れれば離れるほど商売が難しいなという印象がありました。千葉では建売の場合、お客様は建築後にデザインの好き嫌いや日当たりなどを考慮して購入されることが多いです。注文住宅を選ばれるお客様が多いということもあるかもしれませんが、分譲住宅の販売は非常に苦戦しました。千葉の中でも八千代市は前職の販売ではとても苦労したことをよく覚えています。
そのような経験があったので、八千代市を中心に住宅販売で成功しているオカムラホームはすごいなと思いました。
━━オカムラホームが千葉県で成功している要因はどこにあるのでしょうか?
「地元密着で地主様や地域を大事にして地主様のお困りごとを解決する」ということです。地主様のお困りごとを解決する方法として、オカムラホームでは土地をそのお客様に一番合った方法でご提案をして、様々な形で不動産の活用をおこなっていました。
今までいた会社では、土地をいろんなところからできるだけ安く買って、その土地に建物を建てて売っていくという手法が主流でした。オカムラホームでは地主様や地域に対してしっかりと向き合っていることが、成功要因の一つだと感じています。
━━オカムラホーム様は「地元密着で地主様や地域を大事にする」という独自の戦略を持ち成功されていたんですね。そのような中で、大地さんが感じる課題は何かありましたか?
当時のオカムラホームのお家は、私から見ても施工も良く、良いものを作っていましたが「オカムラホームらしいデザインのお家」はあまりありませんでした。分譲地に合わせて様々な間取りの工夫やデザインのチャレンジはしていましたが、もっともっとデザイン力を上げていきたいという課題がありました。
また、分譲地を作るごとに販促のためのパンフレットやチラシの制作を外部のデザイナーさんに依頼していましたが、毎回コンセプトがばらばらでデザインの統一感もありませんでした。
以前から会長に「オカムラホームらしい外観のお家を作りなさい」と言われていましたが、なかなか実現できず、もどかしい思いをしていました。伝えることも難しいですし、伝えたとしても想像を超えるようなものはできませんでした。
━━オカムラホームらしいデザインのお家を作る、デザインの統一感を出す、デザインの要望を伝えるという課題を解決するためにデザイン思考を学ぼうということでbdaとのご縁につながったわけですね。
まずはチラシやWeb等の見た目のデザインがちぐはぐで、もっと良くしていきたいというところからの始まりでした。その中でブランディングデザイン協会さんとの出会いがあり、社員全員がデザインの基礎知識やデザイン思考を学ぶ必要があると思い「ブランディングデザインコーディネーター初級講座」を受講しました。
「ブランディングデザインを取り入れて仕事をしていく」
━━受講前はデザイン思考にどのようなイメージをお持ちでしたか? また、受講後にイメージはどのように変化されましたか?
デザイン思考と言われても正直なところ、どんなものなのかよくわかっていませんでした。デザインについて考え、絵を描くことや物を作ること、デザインをすることがデザイン思考なのかなというイメージでした。
これまでオカムラホームが依頼してきたデザイナーさんはこちらが要望したことに沿って、素材を当てはめて成果物を作ってくれてはいました。
ところが長尾教授からデザイン教育を受けている方々の学習内容を伺うと、デザイナーは単に成果物を作るだけではないということがわかりました。製品やサービスの意義など全てを考えてトータルでデザインすることが、デザイナーとして必要な考えだと教育されているということにびっくりしました。デザイン思考はとても奥が深くて、自分が考えていたものとは全く違うなというのが正直な印象です。
━━どのあたりに奥深さを感じられたのでしょうか? ぜひ具体的にお聞かせください。
例えば一つの椅子をデザインするとして「良い椅子を作る」だけのデザインではなくて「誰が何のためにどういった環境で、設置されどういった人が座るのか。且つ作り手の満足だけではなく商品としてニーズがあるのか、売れるのか」というような裏の裏の裏まで考えられてデザインされているということだと思います。
オカムラホームでもインテリアコーディネーターやデザイナーがいますが、深いところまで考えてデザインする必要があると思いました。単に「モデルハウスのこの空間にこの椅子があったらいいよね、おしゃれだよね」ではなく「この住居空間の中で椅子を置くと想定したらこういう暮らしかなやこういう景色を見てもらいたいな。だから、ここにはイス用の照明を置いて寛げる場所ができて家族との距離感がこうなるだろう」というところまで含めて「デザイン」なのだと漠然とですがわかってきました。
━━これまでお仕事をされてきた中で、ご自身の取り組みで「デザイン思考に近いことをやっていたんじゃないか」と思った点はありますか?
新商品や新しいサービスを開発した際に、販売方法や周知方法などを考えスタッフたちとディスカッションをしながら事業を進めてきたことはデザイン思考に近いものはあったと思います。ただ、それを一人でやっていたので円滑に「デザイン思考的」仕事ができていたかはわかりません。
今回、オカムラホームの多くのメンバーでブランディングデザインコーディネーター講座を受講したことによって視野を広げ、可視化・ジャンル分け・傾向分析をスタッフみんなでおこなえるようになったのは大きな進歩です。アイデアを創出する手法についてはまだまだ勉強中ですが、ブラッシュアップしながら更にいろいろな考え方を持って話し合っていけるようになってきています。
アイデアのまとめ方についても変化がありました。これまでは意見が膨大に出て、その中からなんとなく良さそうなもの選んでいたのですが、今ではたくさん意見を出して可視化後にアイデアをまとめ、収束させることができるようになりました。なんとなく良さそうなもの「選ぶ」のではなく、社員ひとりひとりが出してくれたアイデアを「まとめる」ということが、会社が良い方向に向かっている理由の一つだと思います。
━━アイデアの発散・収束の方法は初級講座でもしっかり取り組む部分ですね。他にも講座の中で印象に残っていることや、仕事に役に立っていることはありますか?
私はデザイナーではないですが、ブランディングデザインコーディネーター講座を受講したことにより、デザイナーへの意見をしっかりとまとめる・指示をする・伝えるということができるようになりました。
デザインの基礎知識を身に着けたことで外部のデザイナーさんの成果物に対して具体的な意見を伝えることができるようになったんです。今回は全社的に受講したことで同じ知識の共有ができるようになったことも大きなポイントです。
━━大地さんだけではなく、外部のデザイナーを含む「仕事全体の視座」があがったということですね。
以前は外部のデザイナーさんと何度も打ち合わせをして成果物を完成させていましたが、今では打ち合わせ回数が減ってきています。講座で習ったCanvaやPowerPointのテクニックを使ってそのまま成果物として発表できるくらいのクオリティーで下地を作ってから外部のデザイナーさんと打ち合わせをできるようになりました。ビジュアルで共有ができることで打ち合わせの回数が減っただけでなく、スタッフのモチベーションが高く保たれていることやスタッフ同士で自主的に学びを継続して、更に技術を磨こうしていることは会社にとって大変プラスなことです。
━━デザイナーに対して想いや考えを伝える難しさは非デザイナーが直面する課題だと思いますが、ブランディングデザインコーディネーター講座を受講することによって可視化・言語化ができ、具体的に伝えられるようになったということですね。
後編ではブランディングデザインを取り入れたことによる効果についてお話を伺います。
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