デザイン思考(デザインシンキング)とは?メリットや5つのプロセスを紹介
- Branding Design Association
- 7 日前
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変化の激しい現代社会では、これまでの常識や前例にとらわれない柔軟な発想が求められています。このような状況下で注目されているのが「デザイン思考(デザインシンキング)」です。ユーザー視点から課題を見つけ、試行錯誤を繰り返しながら本質的な解決策を導くこの思考法は、商品開発やサービス設計に限らず、組織づくりや経営戦略にも活用されています。この記事では、デザイン思考の基本的な考え方や特長、具体的な5つのプロセス、実践に活かせるポイントまで詳しく解説します。
目次
デザイン思考とは?
デザイン思考(デザインシンキング)とは、ユーザーの視点から課題を見つけ出し、仮説・施策の検討や効果検証を繰り返しながら、最適な解決策を導く思考です。もともとはデザイナーやクリエイターが制作するうえで活用する考え方ですが、現在では幅広いビジネスパーソンにも応用されています。「デザイン」と聞くと、色や形などの視覚的要素を思い浮かべる方も多いかもしれませんが、本来の「デザイン」には設計や構想という意味も含まれます。つまり、デザイン思考は単なる見た目の制作にとどまらず、「アイデアを形にすること」や「目的達成のために全体像を描くこと」として、問題解決のためのプロセス全体を指す概念なのです。デザイン思考は、ユーザーのニーズや体験に深く向き合うことで本質的な課題を発見し、革新的なアイデアや解決策の創出、イノベーションにつなげることができます。
デザイン経営との違い
デザイン思考と同じく、近年注目されるようになった「デザイン経営」についても見てみましょう。「デザイン経営」とは、デザインの思考や手法を活用して、企業価値を高める経営手法のことです。デザインを重要な経営資源として活用することが特徴であり、最終的には、ブランド構築やイノベーション創出へとつなげ、企業価値を向上させることが狙いです。デザイン思考は、2018年に経済産業省特許庁によって「デザイン経営宣言」が打ち出されたことで注目が集まりました。機能や品質のよさだけでは他社との差別化が難しくなっている現代において、ユーザーから選ばれるようになり企業成長を維持するために必要であるとして、特許庁も推進しているのです。
参考:特許庁「特許庁はデザイン経営を推進しています」
デザイン思考は、商品・サービス開発などをはじめ、さまざまな課題の解決策を導くためのアプローチや思考法であり、デザイン経営は、経営戦略や企業戦略といった組織全体にデザインの力を活用することです。対象とするものは異なるものの、デザイン経営を推し進めるにあたって、デザイン思考が用いられるという関係性にあります。
デザイン思考の特長
デザイン思考の具体的な特長を挙げると、以下3つの要素を持っています。
● ユーザー視点
● 改善主義
● 創造的な思考
1.ユーザー視点
デザイン思考は、ユーザー視点であることが特長です。ユーザーの「共感」「満足」などの感情に重点を置いて、不満に感じていることはないか、解決すべき問題はないかということを探り本質的なニーズを探ります。このアプローチにより、技術力などの強みや自社の事情を優先することで見逃しがちだった問題に気づき、ユーザーに本当に役立つ解決策を導き出すことができます。
2.改善主義
デザイン思考は、改善主義であることも特長です。最初から完璧を目指すのではなく、試行錯誤と改善を繰り返していきます。アイデアを素早く形にし、ユーザーに試してもらいながら、何度も検証・修正を重ねブラッシュアップを図ります。改善するためにはまず、「どのような問題を課題にするのか」、「その課題をなぜ解決する必要があるのか」を明確にしておくこともポイントです。課題の定義付けと、解決の意図を明確にしたうえで、改善を図っていくのがデザイン思考のプロセスに求められます。
3.創造的な思考
デザイン思考は、これまでとは異なる創造的な思考が求められることも特長です。「○○のはずだ」という先入観や固定概念、「いつも○○している」といった前例に制限されることなく、多様な視点からアイデアを生み出す創造的な思考が重視されます。
なぜ、デザイン思考が注目されているのか
デザイン思考が注目されている背景には、市場構造の変化があります。製品やサービスの開発を行う場合、これまでの手法であればユーザーのニーズや市場を調査したうえで、仮説を立てて開発を進める「仮設型検証」が主流でした。しかし変化が激しく将来の予測が難しい現代において、この「仮設型検証」は役に立たなくなっています。今では商品やサービスは有り余るほど市場に出回っており、インターネットで検索すれば簡単に手に入る時代です。ユーザーは商品やサービスの品質だけでは満足できず、購入体験そのものやユーザーサポート、利用することでの満足度の高さまでを求めるようになってきました。このような消費者行動の変化を踏まえ、企業は「商品開発だけに力を入れればよい」というわけではなくなったのです。優れた商品が数多くある現代において、ユーザーから選んでもらうためには、ユーザー自身が気づいていない潜在的なニーズを発見し、ニーズに応えられる商品開発が必要とされています。ユーザーや市場のリサーチを行っても、本質的な課題を察知することが難しく、商品開発のハードルは各段に上がっている状況です。そのため課題を見つけて、イノベーション創出へとアプローチしやすいデザイン思考が注目されています。
デザイン思考を取り入れるメリット
企業がデザイン思考を取り入れることで、以下のようなメリットがあります。
● ユーザーニーズにあわせた製品・サービスが作れる
● 多様な意見をプロダクトに取り入れることができる
● メンバー間の信頼構築につながる
● アイデアの提案が社内で習慣化できる
それぞれ詳しく紹介します。
ユーザーニーズにあわせた製品・サービスが作れる
デザイン思考によってユーザーの心理を深く探ることで、ユーザーニーズにあわせた製品・サービスを作れることが大きなメリットです。数多くの商品・サービスがあふれる現代において、売れているものはどれも消費者自身も気づいていない潜在ニーズを見つけ、そのニーズに応えているものです。デザイン思考を用いることで、従来のような市場を中心としたアプローチではなく、ユーザーを中心とした考え方ができ、これまでと異なる新しいアイデアが生まれやすくなります。
多様な意見をプロダクトに取り入れることができる
デザイン思考を取り入れることで、多様な意見をプロダクトに取り入れられます。デザイン思考では、固定概念や前例を取り払った創造的な思考が求められるため、多数のメンバーでさまざまな意見を出し合いながら、試行錯誤を進めていくことが効果的な進め方です。その結果、多様な意見を取り入れられるため、視野を広げたり新たな発見につなげたりでき、よりよいプロダクト制作が行えるようになります。
メンバー間の信頼構築につながる
デザイン思考は、メンバー間の信頼構築につながるというメリットもあります。デザイン思考では、多様な意見を出し合うことが重要なプロセスの一つです。自由な発想・発言につなげるためにも、相手の意見を聞き入れる姿勢でいることが大切です。自分の意見が相手から否定されてしまうと、発言したりアイデアを出したりすることを躊躇するようになり、多様な意見は得られなくなるでしょう。「デザイン思考を取り入れる」=「相手の意見を否定せずに共感する」ということを繰り返すうちに、メンバーの心理的な安全性を高められるとともに、メンバー間の信頼構築にもつながります。
アイデアの提案が社内で習慣化できる
デザイン思考を取り入れることで、アイデアを出すことが社内で習慣化できる点も大きなメリットです。デザイン思考では、多様な意見を出すことに加えて、短期間のうちに思考錯誤を繰り返すプロセスが取り入れられます。アイデアを提案してみる、試作品を作ってみるという、ひとまず「やってみる姿勢」が大切です。反対に「こんなアイデアは却下されるだろう…」「失敗するかもしれない…」といった考えは必要ありません。アイデアの提案がしやすい環境にあるため、提案が習慣化できるほか、イノベーション創出や課題に柔軟に対応できるなどの、さまざまなメリットも期待できます。
デザイン思考の5つのプロセスとは?
デザイン思考では、次の5つのプロセスを踏むことで課題解決を目指します。
共感(Empathize):ターゲットを知る
問題定義(Define):課題を明確にする
創造(Ideate):アイデアを出す
試作(Prototype):アイデアを形にする
テスト(Test):試作のFBと改善を行う
この5つのプロセスは必ずしも順番に行う必要はなく、同時進行したり戻ったりしながら、包括的に進めることが大切です。それでは、それぞれのプロセスについて具体的にみていきましょう。
1.共感(Empathize):ターゲットを知る
デザイン思考は、ユーザー視点で考えることが大切であり、軸となる部分です。ユーザーの気持ちに共感することで「本当に求めているものは何か」「困っていることは何か」を明らかにします。そのためには、アンケート調査やインタビュー、モニタリングなどを行い、意見の収集や行動観察をする必要があります。しっかりとユーザーを知り感情に共感することで、ユーザー自身も気づいていない要望やニーズを抽出できるのです。このプロセスで注意しなければならない点は、ユーザーが抱く感情を事前に決めつけないことです。思い込みをなくし、些細なことにも疑問を持つようにすることと、客観的な視点でありのままを受け止めることがポイントです。
2.問題定義(Define):課題を明確にする
ユーザーを知り共感するプロセスで得られた情報をもとに、解決すべき課題を明確にするフェーズに移ります。課題の明確化は、製品・サービスに対する理解を深め、課題を解決する意図を共有するためにも重要です。課題を明確にするために、開発業務やプロジェクトに関わるメンバーで、ユーザーのニーズや要望、課題について議論を深めます。このプロセスでは、問題の原因を解決する方法を探るのではなく、「何を問題とするか?」に焦点を当てて議論することが大切です。目に見える課題にとらわれたりユーザーの意見を鵜呑みにしたりするのではなく、ユーザーの意見や行動を検証して、潜在化された課題やニーズを探っていくことがポイントです。
3.創造(Ideate):アイデアを出す
取り組むべき課題が明確になれば、次にそれらを解決できるアイデアやアプローチの方法について意見を出しあいます。多角的な発想を得られるように、環境や手法にも工夫をこらすことが大切です。たとえば、自由に意見を出し合うブレーンストーミングを実施したり、課題の抽出や分析、思考の整理に役立つフレームワークを用いたりすることが有効です。このプロセスで大切なことは、アイデアや意見に対して否定や批判をしないことです。すでに説明したように、相手から否定や批判されると、アイデアや意見を出せなくなってしまいます。できるだけ自由な環境で、質よりもたくさんの量をアウトプットしていくことが重要です。
4.試作(Prototype):アイデアを形にする
たくさんのアイデアや意見が出たところで、それらを形にしていくフェーズに移ります。一度試作してみて、実際に手に取ったり使ったりしてみましょう。この段階では、完璧な製品を作り上げなくてもかまいません。まずは時間やコストをできるだけかけずに、短時間でアイデアを形にすることがポイントです。完璧でなくても目にしたり触れたりできるようにすることで、新たな課題や気づきが得られるはずです。そしてさらに深堀した議論を進められるようになります。
5.テスト(Test):試作のFBと改善を行う
試作品が完成すれば、実際にユーザーに使用してもらいます。そしてユーザーから試作品のフィードバックをもらい、ユーザーの行動もよく観察することが大切です。これまで見えていなかったユーザーの本音や、潜在ニーズが見えてくるかもしれません。「ニーズに応えられているか」「課題が解決できているか」といった視点で、修正点や改善点などがないか確認しましょう。試作の軌道修正を行いながらブラッシュアップにつなげ、より品質の高い製品・サービスの開発を目指します。デザイン思考は、何度も改善を繰り返すことを前提に、常にユーザー視点で完成品を作り上げることが大切です。
デザイン思考を実践するときに押さえるべきポイント
デザイン思考を実践するときに、押さえておくべきポイントを以下にまとめました。
ユーザー視点で仮設を立てる
デザイン思考では、ユーザーの視点に立つことが重要です。ユーザーの声を拾ったり行動を観察したりしながら、「なぜそのような行動を取るのか」「何に不満を感じているのか」といった本質的な問いに基づいて仮説を立てることが重要です。思い込みや前例などから仮説を立てるのではなく、行動観察や声を収集するプロセスを丁寧に行うことで、解決すべき課題の本質に近づけるでしょう。
ユニークで多様性のあるアイデアを豊富に出す
デザイン思考では、アイデア発想の幅を広げることが求められます。これまでの常識にとらわれず、自由な発想で多様な視点のアイデアを出しあいます。そのためには、チームメンバーの経験や専門性の違いを活かし、多様性のある意見を尊重することがポイントです。そして意見を豊富に出すことが、革新的なアイデアを生み出す土台になります。
「試作」「テスト」を素早く繰り返す
試作品はあまり時間をかけず、「まずはやってみる」という姿勢が大切です。すぐに試作品として形にし、ユーザーに試してもらうことで検証します。最初から完璧なものを目指すのではなく、実際に試してもらったリアルなフィードバックを得ることが重要です。試作とテストを繰り返すことで精度を高め、ユーザーにとって価値のあるものへと近づけていくのです。
状況に応じて柔軟に方向性を変える
デザイン思考を実践するうえで、最初に立てた仮説が違っていたり、アイデアがうまくいかなかったりすることもあるでしょう。そのようなときは、状況に応じて柔軟に方向性を変えることがポイントです。デザイン思考の目的は、アイデアを形にすることではなく、ユーザーにとって価値のある解決策を見つけることにあります。ユーザーのフィードバックや新たに発見した課題から、仮説を立て直すことやアイデア・アプローチの見直しを行い、柔軟に対応していくことが求められます。
デザイン思考に有効なフレームワーク5つ
ここまで、デザイン思考のプロセスや押さえておくべきポイントを紹介しました。実践に移る前に、有効となる5つのフレームワークについても知っておきましょう。
ペルソナ
ペルソナとは、商品やサービスのターゲットを具体的に設定した架空の人物像です。性別や年齢、職業といったターゲットの属性に加え、生活スタイルや価値観、趣味などの多様なプロフィールを細かく設定し、あたかも実在するかのような人物像を作ります。ペルソナを設定することで、ユーザーに対する理解をより深められることがメリットです。メンバー全員が「どのようなユーザーに向けて課題を解決するのか」を明確にし、ターゲット層を共有しやすくなるのがメリットです。
エンパシーマップ(共感マップ)
エンパシーマップは、ユーザーの感情や思考、行動を可視化し、共感するためのツールです。
以下の6つの要素を埋めることで、ユーザーのニーズを漏れることなく整理できます。
● Say and Do(発言や行動)
● Think and Feel(考え、感じていること)
● See(見ていること)
● Hear(聞いていること)
● Pain(痛みやストレス)
● Gain(得られるもの)
ユーザージャーニーマップ
ユーザージャーニーマップとは、アプリやWebサイトなどのデジタルチャネルにおいて、ユーザーが特定の目的を達成するまでの一連の体験を表したマップです。ユーザー体験を可視化し、分析するためのフレームワークとして用いられます。ユーザーが各ステップにおいてどのように感じているかを可視化することで、障害があることに気づいたり改善点を特定したりでき、ユーザー体験を強化できます。
ビジネスモデルキャンバス
ビジネスモデルキャンバスは、ビジネスモデルに不可欠な9つの要素を可視化することで、自社の強みや弱み、環境などを洗い出し、ビジネス全体を把握するのに役立つフレームワークです。
9つの要素は、以下のとおりです。
● 顧客セグメント(対象は誰か?)
● 提供価値(どのような価値を届けるか?)
● チャネル(どのような販路で届けるか?)
● 顧客との関係(どのように関係を構築するか?)
● 収益の流れ(どのような流れで収益を生み出すのか?)
● リソース(必要とする資源の種類やその量)
● 主要活動(どのような活動が必要か?)
● パートナー(協業企業やサプライヤーは誰か?)
● コスト(コストはどれくらいかかるか?)
カスタマージャーニーマップ
カスタマージャーニー マップは、ユーザーの全体的な体験を視覚化するためのフレームワークです。ユーザーが商品やサービスを「認知」してから「検討」「購入」「利用」「その後のサポート」に至るまでのプロセスを、詳細に把握するために用いられます。ユーザージャーニーマップとも似ており、どちらもユーザーのジャーニー(道のり)を視覚化するものですが、それぞれ焦点の当て方は異なります。ユーザージャーニーマップは、アプリやWebサイトなどでのユーザー体験が焦点であり、カスタマージャーニーマップは商品やサービスの購入や利用といったユーザー体験に焦点を当てている点が違いです。
デザイン思考を実践する際の注意点と対処法
デザイン思考は、よりよい商品やサービスを生み出すための革新的な問題解決アプローチであり、ビジネスの環境が変化している現代において取り入れるべき思考方法です。ただしデザイン思考で効果を得るためには、以下の2点に注意しておく必要があります。
● プロセスや効果を理解するまでに時間を要する
● デザインチームメンバーの選定は慎重に行う
それぞれの注意点と対処法について紹介します。
プロセスや効果を理解するまでに時間を要する
デザイン思考で注意しておきたいのは、プロセスや効果を理解するまでに時間を要するかもしれない点です。なぜならデザイン思考は、概要やプロセスを知っただけですぐに実践に移すことが難しいからです。デザイン思考は、製品開発を行ったり問題解決を図ったりするときに役立つ思考、アプローチ方法ですが、製品開発や問題解決のための手法は、デザイン思考しかないわけではありません。企業で取り入れられるその他の例としては、ロジカルシンキングやアート思考などの手法もあります。
● ロジカルシンキング
物事を筋道立てて整理・分析し、解決へと導く思考法です。ビジネスにおいて「誰が見ても納得できる」説明や判断が求められる場面で効果があります。
● アート思考
常識にとらわれず自分の思いや感情から、新たな価値を創造する思考法です。既存の枠組みにない、自由な発想が求められる場面で効果を発揮します。
それぞれの思考法は、以下のようにアプローチの起点が異なります。
思考法 | アプローチ起点 |
デザイン思考 | ユーザーニーズ |
ロジカルシンキング | 情報や事実 |
アート思考 | 主観的 |
デザイン思考以外の手法がすでに根付いている場合、アプローチの起点などが異なるため、デザイン思考を浸透させることが難しい場合もあるのです。
【解決策】デザイン思考を浸透させたい場合は、実践を通して効果を実感する体験を積み重ねることが大切です。上記で紹介したフレームワークを使ったり研修を行ったりしながら、繰り返し実践していくことでより深い理解と習得につながるでしょう。
デザインチームメンバーの選定は慎重に行う
デザイン思考に取り組むメンバーは、慎重に選定を行う必要があります。デザイン思考を実践する際は、多様かつ新しいアイデアをたくさん出すことが重要です。しかし同じような経験を持ついつものメンバーでプロジェクトチームを構成してしまうと、斬新な発想や多角的な視点が生まれにくくなります。
【解決策】チームメンバーは、経験やスキル、役職などが異なる多様な人材で構成することが望ましいです。また意見やアイデアを出しやすい人間関係であることも重要です。メンバーに厳しい上司がいるなどのように、意見を出しにくいような環境は避けるようにしましょう。
デザイン思考を活用した企業の事例3選
デザイン思考の重要性や理解を深めるためには、実際に導入している企業の成功事例を知ることが有効です。ここでは国内外を含めて3社の事例を紹介します。
富士通株式会社
富士通株式会社は2016年からデザイン思考を取り入れ、企業独自の「デザイン思考テキストブック」を作成して公開するなど、デザイン思考に力を入れる企業の一つです。従業員全体にデザイン思考が浸透するように、デザイン思考プログラムを取り入れています。基礎から実践までスキルレベルが分けられており、レベルアップが図れる仕組みを構築していることが特徴です。デザイン思考の活用事例としては、同社が開発したスクールタブレットが挙げられます。実際に製品が使われる現場を観察することで、教室や校庭、体育館などさまざまな環境で使用されることや、小学生から高校生まで幅広く利用されていることを知り、繊細なIT機器として扱われないことに気づきました。そして落下しにくいように滑らないもの、小学校の小さな机にも収まるサイズということを重視して開発されました。
P&G
アメリカの企業であるP&Gは、世界最大級の生活用品メーカーとしてグローバルに事業を展開しています。デザイン思考に関しては、2000年代に経営が傾いたときに、新CEOによって取り入れられました。P&Gのデザイン思考の活用事例としては、有名な電動歯ブラシ「ブラウン」が挙げられます。電動歯ブラシのIoT化を進めるにあたり、開発当初は「うまく歯が磨けているか感知できる」「歯肉の敏感性を測れる」など、技術を最大限に詰め込んだものを構想していました。しかしさまざまなリサーチを行った結果、ユーザーは「専用の充電器が必要」「交換用のブラシを買い忘れる」などの不満や課題を抱えていることがわかります。そしてUSBで充電できるもの、本体とアプリが連動してブラシの注文がリマインドされるといった機能を組み込み、ニーズに沿ったIoT電動歯ブラシが開発されました。
任天堂株式会社
任天堂株式会社は、ゲーム機「Wii」や「Nintendo Switch」などのヒット商品を生み出した企業です。これまでのゲーム機とは異なる新たなスタイルを確立させ、ユーザーに新たな価値を提供しています。デザイン思考の事例として、「Wii」を見てみましょう。同社はまず、従業員の家庭を観察することから始めました。そしてゲーム機があると、子どもがリビングにいる時間が短いことや、親子関係が悪化するといったことに気づきます。ネガティブな印象を持つゲーム機を根本から見直そうとし、家族全員が楽しめ、良好な関係を築けるゲーム作りをコンセプトに掲げるのです。アイデアの創出と1000回以上にも及ぶ試作を重ねた結果、身体を動かして操作するスティック状のコントローラーが誕生し、家族みんなで楽しめる価値あるものを生み出しました。
まとめ
デザイン思考は、ユーザーの潜在的なニーズに寄り添いながら、創造性と柔軟性を持って課題解決に取り組むための思考法です。ユーザー視点、改善主義、創造的な発想という特長を持ち、今後のイノベーションや企業成長を支える重要な手法として広がりを見せています。製品やサービスの質だけでなく、体験価値が重視される現代において、デザイン思考を取り入れることは、競争力を高める大きな戦力となるでしょう。今回は、デザイン思考について実践に役立つフレームワークや事例なども紹介しましたが、より深く知識を深めたい場合は、「デザイン思考検定」がおすすめです。デザイン思考のマインドやステップごとのさまざまな手法を学べるため、ぜひ活用ください。
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