中小企業のためのデザイン経営入門 ― “自社らしさ”を見つける第一歩
- Branding Design Association
- 10月2日
- 読了時間: 12分

多くの中小企業が「良い製品をつくっているのに選ばれない」という悩みを抱えています。 価格競争に巻き込まれ、社員教育やブランドづくりに課題を感じている経営者も少なくありません。こうした課題に対する有効なアプローチが「デザイン経営」です。
本記事ではその基本から、中小企業ならではの導入のポイント、実際の事例までを整理し、“自社らしさ”を武器に持続的な成長を実現するための第一歩を解説します。 デザイン思考・デザイン経営でお困りなら一般社団法人ブランディングデザイン協会へ
目次
デザイン経営とは?中小企業が知っておくべき基本

単なる「デザイン活用」ではない、経営手法としての意味
「デザイン経営」という言葉は、しばしば「見た目を整えること」や「製品デザインの工夫」と誤解されがちです。しかし、その本質はもっと深いところにあります。
経済産業省・特許庁が2018年に発表した「デザイン経営宣言」では、デザイン経営を「デザインを経営の中心に据え、ブランド構築とイノベーション創出を同時に実現する経営手法」と定義しています。つまり、デザインは単なる表層的な意匠ではなく、経営理念を可視化し、社員教育や商品開発の現場にまで浸透させる“共通言語”として機能するものです。
従来の「改善活動」や「QCサークル」との大きな違いは、デザイン経営が市場や顧客の視点から自社を捉え直す点にあります。単なる効率化やコスト削減の枠を超え、「自社はなぜ存在し、社会にどのような価値を提供するのか」という根本的な問いを出発点に据えるのです。
特に中小企業にとっては、この考え方が大きな転換点となります。限られたリソースで競争力を高めるには、製品やサービスの表面的な改善だけでなく、理念と現場を結びつけ、顧客に“一貫した価値”を届ける仕組みづくりが欠かせません。これこそが「デザイン経営」の基本であり、中小企業が未来に向けて持つべき視点なのです。
中小企業にこそ必要な“自社らしさ”の再発見

多くの中小企業は「良い製品をつくっているのに選ばれない」という悩みを抱えています。技術や品質には自信があっても、市場では価格競争に巻き込まれ、大手や大量生産できる企業に埋もれてしまう。数や資本で勝負する領域ではどうしても不利になってしまうのです。
だからこそ必要なのは、「価格以外の理由で選ばれる存在になる」こと。つまりリソースの限られた中小企業でも実現可能な “ニッチトップ”戦略です。特定の市場や分野で「この企業ならでは」と認められることで、価格競争から脱却し、持続的な成長を実現する道が拓けます。
そのために不可欠なのが「自社らしさ」を見つけ出すこと。ここで有効なのが デザイン経営 です。デザイン経営は、見えにくい課題や強みを可視化し、理念やビジョンを言語化して社員教育や商品企画に反映させる仕組みをつくります。
単なる表面的な改善ではなく、企業の「存在意義」を軸に据えることで、自社の独自価値を明確にできるのです。
なぜ今、中小企業における社員教育とブランド価値に「デザイン経営」が効くのか

社員の思考力・共感力がブランドを育てる
ブランド価値は、経営者の想いだけでなく、社員一人ひとりの行動の積み重ねによって形づくられます。すべての社員に共通して必要なのは、「自ら考える力」 と 「顧客の立場に立つ共感力」 です。この2つがなければ、どんなに経営理念を掲げても実際の現場でブランドは育ちません。
そのうえで、役職ごとに求められる役割があります。
若手社員:現場で課題を発見し、自ら解決策を考える力を磨く
中堅社員:顧客やチームの声を拾い上げ、共感をベースに改善へつなげる役割を担う
管理職:理念やビジョンを現場の実務に落とし込み、全体の方向性を示す
デザイン経営を社員教育に取り入れることで、こうした基礎力と役割ごとのスキルをバランスよく育てられます。社員一人ひとりが「ブランドの担い手」として自覚を持ち、組織全体が同じ方向を向いて行動できるようになるのです。
理念と現場をつなぐ“共通言語”としてのデザイン思考
デザイン経営を実践するうえで欠かせないのが、「デザイン思考」という共通言語です。
同じ企業においても立場が違えば、議論の焦点も異なりがちです。例えば、製造部門が「品質向上」をテーマに議論し、営業部門が「顧客満足」をテーマに語ると、話がかみ合わないことがあります。
しかし、両者が「顧客体験」という共通の軸を持てば、一気に対話がスムーズになります。品質の改善も、顧客満足の向上も、最終的には「顧客体験をどう良くするか」という目的に収斂するからです。
さらに、この共通言語は横の部門連携だけでなく、経営層と現場をつなぐ縦の対話にも効果を発揮します。経営層にとって「顧客体験」は理念やビジョンを具現化するものであり、現場にとっては日々の業務判断の基準となります。つまり「顧客体験」を軸にすることで、組織全体が同じ方向を向きやすくなるのです。
こうしてデザイン思考は、単なる発想法にとどまらず、部門や役職の壁を越えて「理念と現場を橋渡しする共通言語」として機能します。
中小企業でも始められる、デザイン経営の導入ステップ

まずは「MVV」を言語化する
最初の一歩は、経営者と経営幹部が中心となり「我が社は何のために存在しているのか」を明確にすることです。経営理念を「ミッション(存在意義)」「ビジョン(目指す未来)」「バリュー(大切にする価値観)」に整理し、短くわかりやすい言葉で定義します。
ここではまず、経営陣の意思として方向性を固め、仮説版のMVV をつくることがポイントです。
社員と一緒に考える場をつくる
ただし、経営陣がまとめた言葉をそのまま掲げても、社員の腹落ち感は得られません。そこで、ワークショップ形式で社員と一緒に「自分たちの仕事は誰の役に立っているのか」を考える場 を設けます。
例えば、付箋を使った意見出しや、特許庁の「デザイン経営コンパス」を用いた対話は効果的です。 経営者がつくった仮説を社員と共有し、現場視点のフィードバックを取り入れることで、“共に創った理念”へと進化させることができます。
小さく始めて、徐々に浸透させる方法
いきなり全社導入を目指す必要はありません。まずは小さなプロジェクトや部署単位から始め、成果を確認しながら段階的に広げていくことが成功の鍵です。小さな成功体験を積み重ねることで、社員の共感と参加意欲が高まり、自然に全社文化へと浸透していきます。
デザイン経営導入の注意点:事前に知っておくべきハードル

デザイン経営は、中小企業にとって「新しい未来をつくる強力な手法」である一方で、導入の過程にはいくつかのハードルがあります。これらを事前に理解しておくことで、実践の際に現実的な期待値を持ち、長期的な視点で取り組むことができます。
1. 社内に浸透するまで時間がかかる
デザイン経営は「制度導入」や「新商品開発」にとどまらず、企業文化そのものを変えていく営みです。そのため、結果が出るまでには時間がかかります。小さな成功事例を積み重ねることが、社員の納得感や共感を生み、最終的に全社的な変革につながります。短期間で劇的な変化を期待するのではなく、数年単位で浸透させる覚悟が必要です。
2. 専門人材や外部支援が必要
MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)の言語化やワークショップ設計には、ファシリテーションスキルやデザイン思考の知識が求められます。中小企業単独で取り組むとノウハウ不足に直面しがちです。外部の専門家や支援プログラムをうまく活用することで、導入の精度とスピードが大きく変わります。
3. 短期的な成果が見えにくい
デザイン経営は、売上や利益のようにすぐに数値化できる成果よりも、社員の意識変化やブランドの信頼性向上といった「見えにくい効果」が先に現れます。これを「成果が出ていない」と誤解してしまうと、途中で取り組みが頓挫してしまうリスクがあります。評価軸を短期の数字だけに置かず、長期的な価値創出を成果として認識することが重要です。
4. 経営層のコミットが不可欠
デザイン経営は、経営層が「任せきり」にしてしまうと形骸化してしまいます。経営トップが自らの言葉で理念を語り、社員と対話する姿勢を示すことが、社内全体にとって最も強力なメッセージになります。経営者の関与が薄いと「また新しいスローガンが出てきただけ」と捉えられてしまい、実効性を失います。
まとめると…
デザイン経営は「すぐに成果が見える魔法の杖」ではない。
外部支援や社員の巻き込みを組み合わせながら、時間をかけて育てる取り組みである。
経営者の強い関与が、社内文化を変える最大の推進力になる。
中小企業でのデザイン経営導入事例

デザイン経営は抽象的な概念ではなく、実際に中小企業の現場で成果を生み出している手法です。ここでは、伝統産業や製造業、地域企業などが「自社らしさ」を再発見し、社員教育やブランド価値向上につなげた具体的な取り組みをご紹介します。
事例を通じて、規模や業種に関わらず自社に応用できるヒントが見えてくるでしょう。
東洋ステンレス研磨工業株式会社(福岡県)
課題
リーマンショック後、事業拡大を模索するも成果が出ず、社員の間で「自分たちの強み」が不明確になっていた。価格競争に巻き込まれるリスクも高まり、差別化の必要性が課題となっていた。
取り組み
知的資産経営セッションで自社の歴史・技術・文化を棚卸し。
「金属に価値を与える」という本質に立ち返り、「金属化粧師」というブランドコンセプトを策定。商標登録を実施。
社員教育の一環としてブランドコンセプトを共有し、顧客体験を意識した行動を促進。
成果
「研磨請負業」から「金属意匠メーカー」へと転換。
海外展開を加速し、技術ブランドとしての認知度が向上。
社員の誇りと一体感が醸成され、採用や人材育成にも好影響を与えた。
株式会社ベルニクス(埼玉県)
課題
電子部品メーカーとしての高い技術力がある一方で、理念や事業戦略が曖昧で新規事業の創出に課題を抱えていた。社員教育の仕組みも不足し、現場と経営の距離があった。
取り組み
デザイン会社(ベルデザイン)と協業し、「デザイン経営×知財」をテーマに共学。
経営理念を再定義し、事業戦略を再構築。
社員参加型のワークショップを実施し、経営層と現場が一体となって「顧客価値」を再確認。
成果
部門を超えた共通言語としてデザインが機能し、社員間に一体感が生まれた。
経営理念が具体的な行動や新規事業の方向性に結びつき、社員の発言や提案の質が向上。
新規事業の芽が育ち、持続的な成長への基盤が築かれた。
株式会社能作(富山県)
課題
富山県高岡市で400年以上続く鋳物産業の中で、能作も受託加工中心の事業形態に依存していた。下請け体質から脱却できず、自社ブランド構築や市場開拓が大きな課題だった。
取り組み
錫100%の食器やインテリアといったオリジナル製品を開発。
デザイン経営を通じて「伝統工芸の再定義」と「現代のライフスタイルに合う商品展開」を実現。
産業観光を積極的に導入し、本社工場を開放。製造工程や鋳物文化を体験できる施設を整備。
成果
「錫=能作」という強いブランドイメージを確立。
海外市場への販路拡大に成功し、伝統産業の枠を超えた成長を実現。
工場見学を通じた観光収益や地域活性化にも貢献し、地域ブランド企業としての地位を確立した。
事例から学べる共通点
自社の強みや理念を「言語化」して再定義している
どの企業も、強みや存在意義を掘り下げて表現し直すことから改革を始めている。
社員を巻き込む取り組みをしている
ワークショップや教育を通じて、現場も経営も一体となって「共通言語」を形成している。
ブランド構築が新規市場や事業展開につながっている
東洋ステンレスは海外展開、ベルニクスは新規事業、能作は観光事業といった形で、デザイン経営が直接的に成果を生んでいる。
【参考リンク】特許庁『中小企業のためのデザイン経営ハンドブック2』(2023年7月)PDF
まとめ

本記事では、中小企業が直面する「自社らしさの不明確さ」や「価格競争への巻き込まれ」という課題に対し、デザイン経営が有効なアプローチとなる理由をご紹介しました。
経営者の方へ
「良い製品をつくっているのに選ばれない」と感じていませんか? デザイン経営は、自社の存在意義や強みを言語化し、価格以外の理由で選ばれる存在になるための仕組みをつくります。持続可能な成長への道を拓く戦略です。
管理職の方へ
現場と経営理念がつながらず、部署ごとの活動がバラバラになっていませんか? デザイン思考を共通言語として導入することで、部門を越えた連携が生まれ、理念が現場の実務に活かされます。
人事・教育担当の方へ
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