「デザイン経営」という言葉を耳にしたことはあっても、「自分の会社には関係ない」「難しそう」と感じている経営者は少なくありません。
しかし、不動産・建築業を営む株式会社オカムラホームの金子保夫社長は、2019年にBDA(一般社団法人ブランディングデザイン協会)と出会い、7年以上にわたってデザイン経営を実践し続け、結果的に組織は大きく変わり、業績も着実に伸びたといいます。
「デザイン経営の実践は難しいことではない。むしろ楽しい」と語る金子社長に、リアルな実践のプロセスと成果について詳しくお伺いしました。
■デザインとの出会い「アートやビジュアルではなく、経営そのものだ」と気づいた瞬間

――それでは、まずデザイン経営に興味を持ったきっかけと、なぜ取り組もうと思ったのかという点について教えてください。
金子社長
弊社は昨年2025年12月に30周年を迎えたのですが、私がデザイン経営と出会ったのは2019年でした。経済産業省・特許庁が「デザイン経営宣言」を発表した翌年のことです。
当時の私は「デザイン」という言葉を、アートやプロダクトのビジュアルのことだと思っていました。
そんな中、現在BDAの代表理事を務めている長尾徹先生と、共通の友人を通じて知り合いまして。長尾先生は千葉工業大学デザイン科学科の教授で、デザイン思考を活用して経営を進めていく手法について話してくださったんです。
「デザインとは、プロダクトやアートといったビジュアルに限定されるものではなく、すべての物事に関わるものだ」という考え方に、すごく興味を持ちました。
―― 不動産・建築という業種でも、以前からデザインへのこだわりはあったと思います。それでもBDAに加盟しようと思ったのはなぜですか?
金子社長
私自身はデザイン性にこだわって経営を進めてきた自負はありました。ただ、代表である私だけがデザインにこだわっていても限界がある、ということを痛感していたんです。
社員全員がデザイン思考を通じてプロダクトやサービスをつくり、経営を進めていける組織にしたい。そう感じたことがBDA加盟のきっかけです。
もう一つ正直に言うと、経営理念や会社のパーパスは頭の中にあるのに、それをうまく言語化して社員に伝えることができていなかった。私が一人で作った経営理念が「お題目」になってしまっている、という課題を強く感じていたことも、デザイン経営に興味を持ったきっかけです。
■「言語化」がすべての起点だった——BDAのツールで、頭の中が整理された


―― 実際にデザイン経営を取り入れる際に、最初にどんな取り組みをされましたか?
金子社長
まず行ったのは、社員と一緒に理念を共有すること、そして自分事化してもらうことです。
私自身の想いとして、社員が私と同じ思いで仕事をしていく、お客様に接するというところがスタートです。
具体的には、BDAのツールを活用しながらデザイン思考を学んでいきました。
「我々が何を大切にし、どういう想いで経営を進めていくのか」という点を明確にし、全社員がツールを使って講義を受け、ベクトルを合わせていく工程を最初に行いました。
――経営者の経営理念や想いを社員と共有していくことは大切なことですが、実際に苦労されてる企業は多いと思います。
BDAにはそのツールや手法までセットであり、サポートしてもらえるということですね。
金子社長
そうですね。そして、BDAと関わって一番良かったのは、自分の想いや理念が体系化・整理されて、言語化できたことです。
頭の中になんとなくあったものが、ツールを使うことで整理されて、どのようにお客様や社員に伝えればいいのかを体系化できたことが大きかった。
言語化してからは、その言葉をみんなと共有し、会社が考えていることに社員が共感して、その共感の中で仕事を進めていける状態を目標にやってきました。今まさに、ベクトルが合ってきているというのが現在地です。
■「10人強が辞め、5人が戻ってきた」——変化の痛みと、その先にあったもの

―― デザイン経営を実践してみて、社員のマインドや組織にどんな変化が生まれましたか?
金子社長
正直に言うと、理念を言語化して伝えた時に、その想いに共感できない社員もいました。
そういう方々は辞めていきました。10人強いましたね。
―― それは大きな変化ですね。
はい。ただ、その後、辞めた方のうち5人ほどが戻ってきてくれたんです。
一度外に出て、いろいろ見た上で「やっぱり戻りたい」と言ってくれた。それはつまり、私の想いが言語化されて伝わったということだと思っています。戻ってきた方は今、すごく活躍してくれています。
辞めた時は正直つらかったですが、今考えれば、ベクトルの違う人たちと一緒に仕事をしても、いい仕事はできない。デザイン経営を実践することによって起きた副産物だったなと思っています。
―― 組織として、具体的にどんな変化を感じていますか?
金子社長
一番大きいのは、「同じ言語で会話できるようになった」ことです。共通のビジョンがあるから、打ち合わせや会話がまとまりやすくなった。
それと、仕事の「基準」ができたんです。「これが我々の仕事だ」という言語化ができているので、それに外れることがなくなった。社員自身も「あ、これは違うな」「これは合ってるな」という判断がつきやすくなっています。
また、3ヶ月に1度「理念共有会」を行い、私の想いと言語化したものをテーマに話し合いを続けてきました。
以前は単年度の数字目標だけを追いかけていたのが、今は5年後のビジョンに向けて、会社と社員がやりたいことが一致してきている。信頼関係の中で、仕事の質も向上してきたと感じています。
■「House(ハウス)ではなくHome(ホーム)をつくる」5年後を見据えた企業姿勢に変化

―― 商品やサービス面での変化も教えてください。
金子社長
先ほど申し上げたように、以前は単年度の計画を達成することを繰り返していました。目標をクリアしたら、また次の1年が始まる。その繰り返しがずっと続く感覚が、正直嫌だったんです。
デザイン経営を通じて、5年後の姿を目指して今やるべきことを考え、進んでいく形に変わりました。お客様が今何を課題にしているか、何を望んでいるかをしっかり仕事に落とし込んで、サービスをブランド化していこうと。
―― 根本的なコンセプトが変わったということでしょうか。
金子社長
そうですね。元々お客様のことを一番に考えて経営してきた部分は変わりませんが、「数字を追いかける会社」ではなく、「お客様の幸せを追いかけることで、数字がついてくる会社」にしていきたいと思ったんです。
我々は不動産・建築全般を扱っていますが、ただ建物を建てる営業ではなく、「人生の豊かさを設計する提案者・サポーター」でありたいと。「House(ハウス)ではなくHome(ホーム)をつくる」という理念があって、引き渡しがゴールではなく、引き渡しがスタート。ずっとご縁をつむいでいける会社でありたいということを、社員と言語化して決めています。
お客様から「ありがとう」と言っていただける仕事をした対価が数字だということを、みんなで積み重ねていこうというシフトチェンジです。
■利益は「ジグザグ」から「右肩上がりの曲線」へ。7年間の数字が語ること

―― 経営者として、費用対効果についてはどう考えていますか?
金子社長
BDAと関わっていく上で、もちろんある程度の費用は発生します。
ただ、先ほどお話ししたように社員や会社のマインドがどんどん変わっていく実感があって、費用対効果はものすごく大きいと感じています。
全社員が一丸となって同じベクトルで仕事をしていけることは、プライスレスというか。今までかかった金額は、本当に安かったなと思っています。
―― 売上や利益といった数字への影響はいかがでしょうか?
金子社長
2019年にデザイン経営と出会う前、利益は「ジグザグ」だったんです。いい物件が買えたり、いいプロジェクトに当たれば利益が積み重なるけれど、それが計画通りにはいかない。平均的ではなかった。
2019年以降の7年間の軌跡を見ると、売上の伸びは微増ですが、利益率は大きく改善しています。
デザイン経営を始めてから2年ほどはギリギリの黒字が続きましたが、その後は目標通りにしっかりと利益が出てきていて、ジグザグではなく右肩上がりの曲線になっている。
経営をしていて予測が立てやすくなったのも、大きな変化のひとつです。
―― 即効性ではなく、時間をかけて地盤を固めていくイメージですね。
金子社長
そうですね、持続するということが大事だと思います。経済産業省のデザイン経営宣言を実践した企業では利益が2〜3倍になっているというデータもあって、まさにその通りだと実感しています。
■デザイン経営を実践するために、最も大切なこと

―― これから取り組もうと考えている経営者に、実体験からアドバイスをいただけますか?
金子社長
まず、社員任せにしないこと。社長・代表者自身が本気で取り組むことが大事だと考えています。
「デザイン経営を導入しよう、では担当者を決めて任せよう」という形ではあまり意味がない。社長自身がデザイン経営のコンセプトや理念に共感してマインドセットをして、社員と同じベクトルを築くことが必要です。
企業の姿勢として「デザイン経営をやってるよ」と言いたいがためにやるのであれば、やらない方がいいかもしれません。
―― 実際に取り組む中で、苦労したことはありましたか?
金子社長
もちろん細かい課題はその都度出てくるのですが、苦労というよりは、楽しさの方が大きかったですね。
創業した時の想いに返って、仕事をする意義を会社や社員に伝えていく中で、変わっていく楽しさを感じました。
―― 最後に、デザイン経営に興味を持っている経営者の方へ一言お願いします。
金子社長
デザイン経営を実践することで社員とのコミュニケーションが増えて、みんなを巻き込んでいけることがすごく大事です。
社長と社員の距離って離れがちですよね。でも、デザイン経営を通じてグッと近づいて、自分という人間を分かってもらって、共感してついてきてくれる人と仕事をしていく。それが、これからの経営の肝だと思っています。
辞める人が出てくるかもしれない。その時は痛みかもしれないけど、後からの効果はすごく実感できます。
やらない手はない、と思います。早ければ早いほどいい。
この時代だからこそ、何のために会社が存在し、何のために仕事をしているのかを全員が共通に思える状態をつくることが、筋肉質で強い会社になることに直結すると、7年間の実践から確信しています。
株式会社オカムラホーム 代表取締役 金子保夫氏
一般社団法人ブランディングデザイン協会 理事。
不動産・建築業として1995年創業、2025年に30周年を迎える。2019年よりBDAのもとでデザイン経営を実践。「House(ハウス)ではなくHome(ホーム)をつくる」を理念に、引き渡し後も長期にわたり顧客に伴走するサービスを展開している。
一般社団法人ブランディングデザイン協会(BDA)では、デザイン経営・デザイン思考に関心をお持ちの企業・経営者の方に向けた会員制度をご用意しています。
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