「デザイン」という言葉の捉え方は人それぞれだと思いますが、デザインの卒業研究※1)と聞いて、どのような研究をイメージしますか。もしくは、デザイン系の大学を卒業した方は、どのような卒研をしましたか。
※1)卒業研究 ≒ 卒業制作
デザインや美術系の大学では、造形をイメージする「制作」が一般的かもしれませんが、私が在学していた大学は、工学部デザイン科学科でしたので、「制作」というよりも、「研究」というスタンスを大事にしていて、卒業研究と呼んでいました。(そう記憶しています…)
私は卒業研究で、ブログサービスを使ってエッセイを書き、それを本にしました。本といっても実際に販売はしておりません。
この卒研が、デザインの見方が変わったきっかけでした。
卒業研究の経緯
研究室に配属され、卒業研究のテーマを決めるゼミを行いました。私は実家が農家なので、デザインで農業に貢献したいという漠然とした思いがあり、まず思いついたものが、稲刈りで使用する鎌のデザインでした。ただ、農業について色々と調べていくうちに、自分の家は兼業農家で、日本の農業を良くしていくために兼業農家がいらないと言われていることを知り、自分が行おうとしていることが、社会のためにならないのではないかと疑問を持ち始めていました。そのことも合わせて、ゼミで発表すると、先生からコメントを求められた先輩からは、「まだ何を作るかまでは決めなくていいんじゃないか」とコメントをもらいました。そして、先生も「僕もそう思う」と言って、「ブログを書いたら?自分の思いを文章にしてみなよ」と言われ、私の卒業研究が始まりました。
ブログサービスを使い記事を書いていき、ある程度記事が溜まってきた頃に、これを本にすることが決まり、製本する前に、もう一度自分の文章を読み返し、感じることやさらに疑問に思うことをアノテーション※2)することになりました。
※2)アノテーション(annotation)とは、英語で「注釈」や「注記」という意味を持つ言
また、さらに、自分以外の人に読んでもらい、コメントをもらいディスカッションし、気づいたことをアノテーションしたり、記事として投稿しました。(自分で書いた文章を読み返したり、他人(特に父)に読んでもらうことは辛かったです笑)
考えるために書いていた
こうして、約1年間ブログを書き続けました。この卒業研究をきっかけにデザインの見方が変わり、何かを「作る」ことだけがデザインではないんだと気づきました。私も今は大学教員をしていますが、「何を作るか(作ったか)」というよりも、その人が何を考え、そこに至るまでのプロセスをちゃんと見なければならないなと、この記事を書きながら再認識しました。そして、なぜ私はブログを書くことになったのか、それは「考えるため」でした。前回の記事で引用した市川伸一先生(教育心理学者)の著書から引用します。
人は「考えたことを書く」のではなく、いわば、「考えるために書く」のである。書くということを通じてこそ、人は考えを進めたり、新しい考えを出したりできる。逆に言うと、考えがまとまらないとか、進まないというときには、書いてみるのがいちばんなのである。しかし、それがわかっていながら、人はなかなか面倒くさがって書かない。(市川伸一『勉強が変わる本』p.186)
私はブログを通じて、農業に対する思いを自身の考えとして述べられるようになりました。
著者プロフィール
あゆみ
都内大学教員。博士(工学)。インストラクショナルデザインを中心に研究。
千葉県市原市出身。実家が農家。ラーメンが好き。
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